ボクの実家のすぐ近くに、中学校があって、その前には大きな壁があります。
そこでボールの壁当てをするのが、ボクの楽しみでした。
壁当てといっても、ボールを壁へ投げて、壁から跳ね返ってきたボールを掴むというだけです。
「九回裏ツーアウト、ランナーなし、1-0で平安高校リード。最後のバッターへ向けて、平安高校エースの源田、第3球投げた。バッター打って、打球はショートへ。ショートしっかりとボールを掴み、一塁へ送球。スリーアウト!試合終了!」
といった感じで、甲子園をイメージして、自分で実況中継してました。笑
小学校5年生のある日、ボクがいつものように、壁当てをしていると、中学校の中から、見たこともない、黒服のおじいちゃんが現れました。
「おっちゃんがノックしたるわ!」
そう言って、容赦なく、その場で出会った、見知らぬおじいちゃんpresentsのノックがはじまりました。
それも、コンクリートの上、公道の上で。笑
ノック・オン・ザ・ロードです。笑
ちなみに、野球でいう“ノック”というのは、“バッターが打ったボールを掴む練習”のことで、通常は公道ではなく、土のグラウンドで行われます。
ここでは、“ボールを打つ人=見知らぬおじいちゃん”で、“ボールを掴む人=ボク”です。
しばらくすると、
「よし!今度は、硬式で行くぞ!!しっかりとボールを見れば大丈夫や!!!」
と、耳を疑うような声が聞こえました。
それまでのノックは、軟式ボールでした。
軟式ボールとは“ゴム製”なのですが、硬式ボールは“ゴムの芯”に糸を何重にも巻き付けて作られており、石のように固いのです。
この見知らぬおじいちゃんは、石のように固い“硬式ボール”でノックをすると言い出したのです。
公道のコンクリートの上で。笑
ボクにとって、硬式ボールのノックをコンクリートの上で受けるという、このうえない恐怖体験をしたのち、
「よう頑張ったな!おっちゃんは、“蛭子屋(えびすや)”っていうねん。この中学校の警備員してるねん。また、ノックしたるわ!」
と、蛭子屋さんは中学校へ戻っていきました。
これが、蛭子屋さんとボクの初めての出会いでした。
つづく