助産師さんに案内され、ボクは分娩室に入りました。
分娩台では奥さんが、まさに赤ちゃんを出産しようとしていました。
「ハンカチで、奥さんの汗を拭いてあげてください」
助産師さんに言われるがままに、ボクはポケットから取り出したハンカチで、そのタイミングもよくわからぬまま、奥さんの顔にある汗を拭き取りました。
「もう少しですよ!頑張ってください!!」
「もう少しやで!頑張って!!」
10分くらい、過ぎたのでしょうか。
助産師さんが、赤ちゃん取り出し、奥さんとボクに見えるように掲げてくれました。
(頼む…。鼓汰郎、元気に泣いて…)
ボクが祈るように、鼓汰郎を見ると、
オギャー!オギャー!!
2022年4月26日23時54分。
鼓汰郎が元気な産声を上げました。
「お母さん、お父さん、元気な男の子ですよ」
そう言って、助産師さんが赤ちゃんをボクたちに見せてくれました。
「では、奥さんの処置をしますので、旦那さんは外で一旦お待ちください」
言われるがままに、ボクは再び廊下にやって来ました。
「よかった…。奥さん、鼓汰郎、ありがとう。ホンマによかった…」
ボクには、嬉しさと同じくらい、大きな安堵感がありました。
奥さんの処置が終わり、助産師さんがボクを呼びにきてくれました。
再び、分娩室に入ると、奥さんと鼓汰郎が、並んでベッドに横になっていました。
鼓太郎は、おくるみにくるまれ、黄色いニット帽を被っていました。
3,144グラム、50.5センチの可愛い赤ちゃんです。
ボクは奥さんに感謝の気持ちを伝え、奥さんの頑張りを労いました。
そして、鼓汰郎にも、「生まれてきてくれてありがとう。パパにしてくれてありがとう。鼓汰郎もよく頑張ったな」と、ボクの気持ちを伝えました。
鼓汰郎は、真っ黒な瞳で、ボクのことをじっと見つめ、その可愛い可愛い小さな手で、ボク右手の人差し指を、ぎゅっと握りしめてくれました。
奥さん、鼓汰郎、ボク。
家族3人で過ごす時間は、あっという間に過ぎました。
初めての3人での家族写真を、助産師さんが撮ってくれました。
奥さんとボクは、マスクを付けています。
「最初の家族写真は、マスクのないものがよかった」というのが、正直なボクの気持ちです。
でも、いつの日か、鼓汰郎が大きくなったとき、「鼓汰郎が生まれたときは、いつもマスクせなあかん世の中やったんやで」と、笑いながら話せば、それはそれでいい思い出になるのでしょう。
「パパな、生まれたての鼓汰郎に会いたかったら、ママに頼んで、生まれてすぐの鼓汰郎に会える病院にしてもらってん」
これを聞いた鼓汰郎が、「えっ!?昔はいつもマスクしてなあかんかったん!?」と、驚けるような世の中に、一日でも早く戻ってほしいなと、ボクは心から思います。
奥さん、鼓汰郎との面会時間を終えたボクは、再び車で自宅に帰りました。
そして、日付も変わった、2022年4月27日午前2時過ぎ、ボクは幸せを噛みしめ眠りにつきました。
つづく